疫病・ウイルス関連本を読んで、現実に立ち向かえる心を育もう


国の緊急事態宣言が解除されすでに約5か月が経過しましたが、まだまだ予断を許さない状況が続いています。特に大都市圏では、新型コロナウイルス(コロナ)感染拡大前のようには外出できず、ストレスを感じている人も多いはず。そこでステイホーム生活のお供に最適な、今こそ読むべき疫病・ウイルス関連書籍を厳選紹介。敵を知り己を知れば百戦危うからず。これらの作品を読破して心のワクチンを充填、明日に向って力強い一歩を踏み出しましょう。

■日本作品


『破船』吉村 昭
新潮社/新潮文庫

江戸時代、隔絶されたある貧しい漁村では、嵐の夜に浜で火を焚き、船を暗礁へとおびき寄せて坐礁させ、その積荷を奪い取ることが、欠かせない収入源になっていた。ある年、連続して船が漂着し、村人たちは期待で盛り上がったが、船内に積荷はほとんどなく、赤い服を着た死体ばかり。仕方なくその着物を村人に分配するが、その後、村には恐ろしい病、天然痘が蔓延する。貧しいゆえの悲惨な風習「お船様」が招いた悲劇を描く。
【ポイント】
古くは日本各地で行なわれていたという風習を素材としている。パニックの最中にもかかわらず、村びとは非情な村の掟に唯々諾々と従う。江戸時代の物語に、現代にも通じる日本人気質が見事に活写されている。
関連ページ:新潮社サイト
【番外編】同じ作者による「大地震に備えるための一冊」

『関東大震災』吉村 昭
文藝春秋/文春文庫

約100年前の大正12(1923)年、現在の防災の日にあたる9月1日、未曾有の大地震、関東大震災によって東京は壊滅的打撃を被った。約200万人が罹災、10万人以上の命が失われたとされる。本書は類のない災厄に襲われた東京の現実をとおして、天災のみならず、パニックが引き起こす人災の恐ろしさまで克明に描いている。30年以内に東京を直下型地震が襲う確率が約30%とされる現在、防災に対する多くのヒントを学べる一冊。
関連ページ:文藝春秋BOOKS
『復活の日』小松 左京
KADOKAWA/角川文庫


イギリス陸軍細菌戦研究所で細菌兵器として研究されていた、宇宙から採取した微生物を元にした猛毒の新型ウイルス「MM-88」。これが持ち出され、ウイルスが入ったトランクを積んだ飛行機がアルプス山中に墜落。雪解けとともにヨーロッパ各地で奇妙な死亡事故が相次ぎ、被害は全世界へと広がり……。このウイルスの猛威に、なすすべなく滅亡の危機にある人類に、復活への道は残されているのか。
【ポイント】
発症からパニックに至る状況描写は、今回のコロナの事例に酷似しており、展開に息を呑む。南極でかろうじて生き残った人々が、人類の復活に立ち上がる姿をイメージさせるラストシーンは感動的。
関連ページ:KADOKAWAサイト
『首都感染』高嶋 哲夫
講談社/講談社文庫


中国で初めてサッカーW杯が開催された20xx年、開催地からは遠く離れた雲南省で、致死率60%の新型インフルエンザ・ウイルスが発生。中国はウイルスを封じ込め、隠蔽しようとするが失敗。世界中から集まったサポーターによって世界に。日本では、感染症対策チームの瀬戸崎優司が水際で食い止めるため空港での検疫を徹底させるが、ついに都内にも患者が発生。総理大臣は「東京封鎖作戦」を決断することに。
【ポイント】
今回のコロナ感染拡大を予言していると話題。日本上陸、世界的パンデミック、空港や学校の閉鎖。初出は10年前にもかかわらず、現実とそっくりなシチュエーションばかりで驚かされる。
関連ページ:講談社BOOK倶楽部
『夏の災厄』篠田 節子
KADOKAWA/角川文庫

どこにでもあるような町に、見えない災厄が突然降りかかる。高熱に苦しみ痙攣を起こしながら倒れていく人々。医療従事者とお役所仕事のせめぎあい、感染の拡大とともに人々の生活がすさんでいく様子や都市機能が消失していく過程など、今回のコロナ感染拡大の状況を先取りしている。撲滅されたはずの日本脳炎がニュータウンを死の町に変える、戦慄のパニックをリアルに描きつつエンターテインメント性も高い一冊。
【ポイント】
今回のコロナ禍でも起こった問題が作品中に多く登場する先見性も鋭いが、魅力的な女性像描写が得意の作家らしい、主婦でもある保健センター看護師の活躍が読んでいて心地良く、救われる。
関連ページ:KADOKAWAサイト

■海外作品


『ペスト』アルベール・カミュ
新潮社/新潮文庫

アルジェリアの港町オラン市で大量のネズミの死体が発見されるようになる。その後、原因不明の熱病者が続出、医師のリウーの悪戦苦闘にもかかわらず熱病=ペストは蔓延していく。市全体が封鎖され、災禍は広がり死者が増える絶望的な状況のなか、市民たちはさまざまな立場・状況で各々が各々のやりかたで、自分ではどうすることもできない災いに抵抗する。コロナ禍の今に限らず、いつでも参照したい定番。
【ポイント】
登場人物たちがそれぞれ違った態度や武器で未知の感染症と向き合い闘う姿は、現状を想起させる。コロナ禍にどう対処すべきか、またそれ以上に、多くの困難とどう向き合うべきなのかのヒントをこの作品は与えてくれる。
関連ページ:新潮社サイト
『隔離の島』ル・クレジオ
筑摩書房/ちくま文庫


フランスからモーリシャスへ向かう船内で天然痘が発生。乗客たちは、目的地モーリシャス近くのプラト島で、薬も食料も不足する環境下で40日間隔離されることに。そんななか新たな発症者が出て、一行は極限状態に。疫病と死の恐怖だけでなく、植民地、差別といった重いテーマとともに、美しい島の自然や若者たちの恋が瑞々しく描かれた、豊かで重層的な作品。
【ポイント】
原題は『40日』。伝染病の隔離期間を意味している。青年レオンが、隔離期間に兄やその妻、島で出会う少女らとの交流を通じて成長していく物語。パンデミック物ではないが、ノーベル賞作家の作品にこの機会にぜひ触れてみたい。
関連ページ:筑摩書房サイト

■人文書


『感染症の世界史』石 弘之
KADOKAWA/角川ソフィア文庫

医学が長足の進歩を遂げた現代においても、毎冬インフルエンザが大流行し、新たに発見された感染症で多くの生命が奪われたり、克服されると考えられていた感染症が再興したりしている。これら感染症の原因は、ウイルスを含む微生物である。医療や薬、保健衛生が進歩する一方で、微生物も耐性や強い毒性を持つなど進化を続けているのである。「感染症は環境問題」と語る著者が地球環境史の視点から感染症を解説。
【ポイント】
感染症と人類との闘いの歴史についてわかりやすく書かれているため、感染症に興味をもったら入門書としてまず手に取ることをおすすめしたい書。
関連ページ:KADOKAWAサイト
コロナ渦に限らず、まったく予期していなかった天災・人災が、突然身に降りかかることが珍しくない近年。突如前例のない対応を迫られる状況で、いかにパニックに陥らずに冷静に賢い判断を下せるか……。「不条理」を描いた傑作として知られる『ペスト』を始めとする、現代の映し鏡のような文芸作品と、現況を分かりやすく解説してくれる人文書は、ウイルスに対応するにとどまらず、現代社会にどう対処し、生き抜いていくかの知恵と示唆にあふれています。
withコロナ時代を迎え、状況は時時刻刻変化し先が予測しづらい昨今ですが、この経験を未来に生かすためにも、今を良い機会ととらえ、これらの作品をとおして、困難に打ち克てる強い心を作りたいものです。

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